偽りの恋人と生贄の三日間
「その主の命令なんだけど?」

 キトエはものすごく渋い顔になった。

「分かり、ました」

「『分かった』でしょ?」

「その……わ、分かった」

 キトエらしい答えに、思わず笑ってしまった。

 リコはキトエが好きだ。けれどリコはいずれどこかの家へ嫁がされる。キトエに好意を告げても意味はない。

 そうして十五歳の春、生贄に選ばれた。

『恋人としてすごしてほしい』と言われて、キトエはさぞかし驚いただろう。親しくしていたとはいえ、一定の距離を保ってきた主がいきなりそんなことを言い出したのだから。

 言い伝えは迷信だと思っていた。逃げられると思っていた。死の確定した、ふたりきりの場所で、恋人としてすごしたかった。

 けれど、キトエにとって、リコはどこまでいっても、主だ。
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