偽りの恋人と生贄の三日間

生贄から解放して

 右手からいくつもの氷のとげが飛ぶ。振り返ったキトエが剣で斬るが、すり抜けたものが腕や脚に深く突き刺さる。元は純白だった薄灰色にくすんだ服に赤色が生まれて、キトエの顔がはっきりと痛みにとらわれる。

 リコは体を魔力で浮かせて、前転するように着地した。振り向きざまに見たキトエの体から、氷のとげが霧散する。そのままキトエに飛びこんで右手を突き出す。

「パンレイト」

 近距離で放たれる氷のとげをキトエはぎりぎりで斬り落としていく。けれど斬れなかった数本が脚に、肩に刺さる。赤を広げていく。ここまできても、キトエは魔法を弾いてこない。リコに攻撃してこない。

 魔力を取られているせいで体が重い。けれどこのままなら、絶対にキトエのほうが先に倒れる。

 左手で魔力を放つ。キトエはとっさというように魔力を剣で弾いた。不意をつかれたのか痛みで手元が狂ったのか、リコへ返ってくる。狙ったのではないと、キトエの見開いた目から分かった。息を吸うほどの時間、相殺するには間に合わず、右手で弾き飛ばす。

 もう終わりにしよう。息を鋭く吐き出す。左手を引いて、魔力をかき集める。指先が、手の平が、赤く、熱く。
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