偽りの恋人と生贄の三日間
 破れた服から見える背中は赤くただれて、色ガラスが何本も突き立っていた。脚にも、腕にも、赤くただれたなかに白い水疱が浮き上がっている。

「キ、トエ、キトエ!」

 時間の氷が割れたように声が出た。ガラスを抜いて、体中のわずかな魔力をかき集めてキトエの背中に手をあてる。

「テナマリカ」

 回復の魔法を口に出す。リコの両手から、キトエの体が淡い光に包まれる。

 自分でキトエを攻撃したのに、滑稽だった。けれどここまでするつもりはなかった。リコをかばおうとするとも思わなかった。叫び出しそうになるのを必死に抑えて、最悪の想像を振り払う。

「リコ」

 うつろに横を向いていたキトエの瞳が、リコを仰いできた。顔から首にもただれと水疱が及んでいて、心臓が跳ねる。

「動かないで」

「リコ……怪我は」

 息がつまった。

「ばか! わたしの心配なんてする必要ないでしょう!」

 吸いこんで、吐き出した息が震えた。

「ごめん、なさい。ごめんなさい」

 魔力が尽きて、キトエの背にあてていた両手から赤い紋様が消えていく。腕も、全身に及んでいた紋様すべて。

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