偽りの恋人と生贄の三日間
四日目

生贄の期限

 紺の空に、満月が真ん中でふたつに割れた月がある。

 城の頂上、外へ続く小さな円形のテラスは、モザイクタイルの囲いが一部分なくなっている。朽ちたのか、意図的にか。風が、リコの長い薄桃の髪と、編みこんだ鎖飾りをさらって音をたてる。

 生贄の期限はすぎた。四日目の、夜明けまであと数時間。

 リコは振り返る。キトエが沈痛な面持ちで見つめている。カーテンを使った急ごしらえの濃紺のマントが風にはためいていた。リコの魔法(イグニト)で服がぼろぼろになってしまったので、城のカーテンを拝借したのだ。

 キトエの表情に、小さく笑ってしまった。

「そんな顔しないで。ちゃんと見てて。わたしを信じて」

 自分自身にも言い聞かせる。

「絶対に負けない」

 魔力、心臓、純潔。生贄に必要な三つのもの。

 想定していなかった。けれど純潔を失ったとき、つながっていた鎖が断ち切られたように魔力を吸い取られなくなったのが分かった。神か呪いか分からないものにも(ことわり)が通じるのかと、ただ驚いた。

 リコに本来の魔力が戻った。どうするのかと問うたキトエに、リコは答えた。ここから出られればいい。城を囲んでいる結界を、内側からリコの結界で壊す。より強力な結界で、中から押し壊すのだ。

 城についてすぐ、結界を攻撃して壊せず、絶望した。魔力が戻り、同じように結界の一部を壊そうと攻撃したが、壊せなかった。ならば全体を壊す方法に賭けてみるしかない。

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