偽りの恋人と生贄の三日間
 額にあてていたカードを円卓にひらいた。リコはダイヤのジャック、キトエはハートのキングだ。なるほど変えさせたかったわけだ、と腑に落ちた。

「ああ、また負けちゃった。カード運ないなあ」

「俺も分かりやすいと思うけど、リコも大概分かりやすいよ」

「え? そうなの? 顔に出てる?」

「顔もそうだけど、何ていうか態度が」

 納得がいかなそうな顔をするリコが可愛くて、愛おしくて、微笑んでいた。リコが驚いたように真剣な面持ちになって、もうこの時間は失われてしまうのだと、もうこの先にはないのだと、体が一瞬で冷たくなって、胸が裂かれるほど痛くなった。

 このまま時間が止まればいい。閉じた世界で、ふたりだけで、ずっとこのままで。

「お願い、ふたつめは?」

 リコの穏やかな瞳に、かろうじて微笑み返した。日が落ちてすぐの空のような青に、紫と緑の欠片がきらめく、見入ってしまう瞳に。

 リコはキトエの髪や瞳や佇まいをとても綺麗だとほめてくれるが、キトエにはリコの淡い桃色の長い髪や、角度できらめく色の変わる深い瞳、懸命に、まっすぐに立つ姿のほうがはるかに綺麗だと思えた。

「特にない」

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