斉藤くんが、冷たくなった。
「す、菅谷。悪い、大丈夫か……!?」
「はは、うん。平気だよ」
「ちょっと頭、見せて」
「え、やだ、髪の毛臭いかも」
「いいから、見せて」
「やっ――」
斉藤くんから腕を掴まれた。目が合って、ものすごく顔が近いことに気づく。お互いに固まってしまったあと、斉藤くんが申し訳なさそうに私から離れた。
「ご、ごめん。俺はただその、頭にケガでもしてたら大変だと思って……」
「う、うん。わかってる」
なにがわかってるんだろうと、自分でツッコミたくなった。さっきまでふざけていたのに、ちょっとだけ気まずい空気が流れてる。
「菅谷が……彼女だったらよかったな」
「え?」
「あーいや、なんでもない。そろそろ教室に戻ろう」
斉藤くんは優しく手を引いて、私のことを立たせてくれた。
階段を下りていく彼の背中が照れている。
なんでもないなんて、ズルい。
だって私が彼女だったらよかったって、ちゃんと聞こえてた。
それは斉藤くんの本心?
それとも雰囲気に流されただけ?
斉藤くんが傷ついている。
もしかしたら、真紀のことを忘れたいのかもしれない。