二枚目俳優と三連休
「あの、友達とランチに行ったり、飲みに行ったりすると、誰よりも私、美味しいって言ってしまうんです。ひょっとして…私の普段の食生活が偏ってるから、でしょうか?」
 さなえは高柳をすがるように見つめた。
 高柳は深く頷いた。
「多分、絶対…そうやな」
 そこまで言って高柳が笑い出した。
「そんな事、普通、気づくやん!自分、遅すぎるて!」
 高柳はツボにはまったのか、ゲラゲラ笑い出した。高柳が笑っているところを見ていたら、なんだかさなえも可笑しくなってきた。
「そう、ですよねえ?」
 二人して、笑った。
「…やっと笑ったな」
 にっ、と笑って高柳がさなえの目を覗き込んだ。あ、とさなえも気づいた。美味しいカレーを食べながらも、心のどこかで田島のことを気にしていた。だが、しおれた高柳を元気づけようとしたため、その心配がどこかへ行ってしまっていた。
 もしかして。しおれてみせたのも、私が元気になるようにだった…?
 高柳を見ると美味しそうにカレーを頬張っている。自分は何もしてへんよ、とまるで言っているようだ。
 さすが役者さんだ…人の気持ちを変えられるんだ。
 言葉にはせずに、そっと感嘆のため息をついた。もうすく完食しそうな高柳の勢いにつられて、さなえもカレーを食べた。誰かとおうちご飯を食べるのが久しぶりだったことに気づく。
 ふたりご飯は美味しい、としみじみ思った。

 ご飯をご馳走になって何もしないのは恐縮なので、夕食の後片付けはさなえがやった。シンクの横に拭き終わった食器類を積み重ねていくと、それを高柳が食器棚の中へしまってくれた。
 時計はもう9時になろうとしていた。
「うーん、そろそろ風呂かな。伊藤さん、わかすから先に入ったらいいわ」
「ありがとうございます。…あ」
 御礼を言いながら気づく。着替えを何も持っていない。しかし、高柳にそれを要求するのも図々しい。言葉に詰まっていると、高柳が察してくれた。
「あ、着替えがいるねんな。ちょっと待ってや」
 すっ、とスマホを取り、ぱっと電話をかけた。
「あ、703の高柳です。すんませんけど、女性の…そう、Mサイズで」
 さなえがぽかんと成り行きを見守っていると、五分もせずに、かたん、と玄関先で音がした。高柳が玄関に行き、戻って来るとショッピングバッグのような袋を手にしていた。
「はい。これで何とかなるんちゃう」
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