初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが

「勘違いして貰っては困るが、彼は王族ではない。まして現状王家から正式に謹慎が言い渡された身でありながら、王城でのこの騒ぎ。……伯爵次第ではあるが、決して軽く無い沙汰が言い渡されるだろう」

 淡々と話すシェイドに流石にクララは青褪めた。
 リエラも思わず固唾を呑む。
 綺麗な顔から表情を無くすと、逆に迫力が出て怖くなるものだ。指先が冷えるような感覚に、ぎゅっと両手を組んだ。
 
「っ、だからそれは誤解で……」
 クララは縋るようにシェイドに手を伸ばしたが、届く間も無く両脇から憲兵に拘束され身動きが取れなくなった。

「放しなさいよ! 私は未来の王子妃なのに! 気安く触らないで!」
「王家への侮辱罪も追加しておこう」
 シェイドの冷え切った眼差しに力強く頷く憲兵に、クララは益々顔を青褪めさせた。
「何で? 嫌よ! 私は何も悪い事なんてしていないわ! むしろ被害者で……そうよ、そこの女よ、その女が悪いの! アッシュを殴ったの、私見たもの! 私にも言いがかりをつけてきて……」
 
「……セドリー令息の手を払ったのは私であって彼女ではない。仮にリエラ嬢の手が当たったのだとしても正当防衛の範囲内だと私が保障する。──連れて行け」
 きっぱりと告げるシェイドに憲兵が礼を返し、リエラにも目礼をしてくれた。
 ホッとした瞬間、クララの泣き声に身体が縮こまる。
「いやあ! 嘘でしょう?! 私の話を聞いてよ!」

 叫ぶクララとアッシュを容赦なく引き摺って、憲兵たちは立ち去った。
 ……まるで嵐が去ったような脱力感が訪れる。

 彼女に勝手な事を吹き込んで誤解を生んだのはアッシュ。だからクララは確かに被害者とも言えなくはない、けれど……
< 35 / 94 >

この作品をシェア

pagetop