初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが

 それでも彼女が自分の立場を都合よく解釈して、貴族と王族に無礼を働いた事には変わらない。
 通常平民は、貴族に関わり、あらぬ誤解をされないようにと距離を取るものだ。彼女の場合、アッシュの近くにいすぎてその感覚が麻痺してしまったのだろうけれど……

(多分、百叩きくらいの刑だと思うのよ)
 
 温情で半分に減らされるとか、手加減して貰えるとかはあると思うので堪えてほしい。流石にリエラも少なからず迷惑を被った身として、無罪放免は看過できないと閉口した。
 ──なんて一息入れていると、直ぐ傍から落ち着いた声が降ってきた。

「……アロット伯爵令嬢」

 びくりと身体が跳ね上がる。
 一難去ってまた一難。
 ああ、今度は何を言われるのだろうか……
 リエラはびくびくと振り返った。
 
「……えっと」
「大丈夫ですか?」
「あ、はい……」
 ちらっと視線を上げると気遣わしそうなシェイドの眼差しとかち合った。

(久しぶりにこの顔を見るわ)
 子供の頃は同じくらいの高さにあった顔が今は上から見下ろしてきているのが、何だか感慨深い。
 ……昔は頬はもっと柔らかな曲線を描いていて、桃色に色付いていた。

 今はシャープになった面差し、広くなった肩幅に男らしくなった骨格……
 襟ぐりから見える喉仏が何だか不思議で、あれから本当に八年も経ったんだなあと、改めて年月の長さを思った。
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