初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが

 自分だけではままならなかった心。
 友人たちと一緒にいても、両親に甘やかされても、持て余したままの心の片付け方は分からなかった。 
 そんな心の隅で埃を被ったまま、行き場の無かったそれをシェイドは手に取ってくれた。

(……嬉しい、な)

 気付けば溢れる思いと共に、ポロポロと涙が零れていた。慌てて指先で押さえると、シェイドが焦ったように手をバタつかせた。
「す、すまない。泣かせるつもりは……!」
「いえ、違います。嬉しくて……」
「……っ」
 慌てる姿が何だか可愛らしくて、泣きながら思わず笑ってしまう。シェイドが躊躇いながらハンカチを出し、そっと目元を拭ってくれた。
 
「その……リエラ嬢」
 シェイドの声に伏せていた目を向ける。
「良かったら、庭園を案内させて貰えないだろうか」

 それは子供の頃の二人の唯一の思い出だ。
 苦いものだったそれが、心が解れた今、やり直しを受け入れる。
「はい、嬉しいです。よろしくお願いします」

 シェイドはホッと息を吐いて、エスコートの手を差し出した。そこに指先を乗せ彼に続く。
 十年前のあの時は逆だった。
 リエラが彼を案内していた。


 王宮の見事な庭園を歩きながら、シェイドは逸話や見頃を丁寧に教えてくれた。その時間は飽きないように、疲れないようにという気遣いに満ちている。
 ラベンダーの良い香りが鼻腔を擽り、ホッと気持ちが安らいでいく。

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