冷酷御曹司の激情が溢れ、愛の証を宿す~エリート旦那様との甘くとろける政略結婚~
初めに、秋野菜を使った前菜が出てきたので、割り箸を水平に持って上下に割ってからさっそく頂く。
そのあとは、蓋付きのお椀に入ったお吸い物。お椀の縁に左手を添えながら右手で蓋を持ち上げる。内側の水滴を器の中に落としてから開けると、左手を添えて蓋を裏返して置いた。
まずは汁をひと口味わう。昆布とかつおで取った薄味の出汁は、ほっと気持ちが和らぐ美味しさだ。続いて具に箸をつけていると、ふと宮條さんの視線を感じた。
「さすが老舗旅館の娘だな。食事の所作がきれいだし、作法もよくわかっている」
「えっ。……ありがとうございます」
褒められたのだろうか。思わず照れて俯いてしまった。
「祖母が、マナーには厳しい人だったので」
おっとりしている両親はそういったことに無頓着だったけれど、旅館の仕事で忙しい両親の代わりに私を育ててくれた祖母は作法にとても厳しく、子供の頃からいろんなことを徹底的に教わった。
食事についていえば、箸の持ち方から姿勢、食べているときは音を立てないといった基本的なことから、こういった会席料理を食べる際のマナーも祖母から一通り叩き込まれている。
私としてはすっかり体に染みついているので当たり前のことなのだが、こうして改めて褒めてもらえるとうれしくてつい頬が緩んだ。