政略結婚は純愛のように〜完結編&番外編集〜
 午後の日差しが柔らかく差し込む加賀家の和室で、由梨はせっせと洗濯物を畳んでいる。沙羅の肌着やガーゼやタオル、小さい彼女のために、必要なものがこんなにたくさんあることに驚くばかりである。

 視線の先には布団の上ですやすやと眠る沙羅。ぐずぐずと由梨をてこずらせたさっきまでとは別人のようだ。

 その天使のような真っ白なほっぺたに、思わずキスをしたくなってしまうが、今は我慢と由梨は自分に言い聞かせた。
 彼女が寝ている間に、やらなくてはいけないことはやまほどある。

 万が一にでも目を覚ましてもらっては困るのだから。
 日曜日の今日も隆之は朝早くから仕事に行った。でもなるべく早く帰ると言っていたから、もう間もなく戻るだろう。

 夕食は何にしようかな。簡単なもので彼が好きな物がいい。その前に、この洗濯物を片付けてしまって……。

 でもなんだか沙羅のかわいい寝顔を見ていたら自分まで眠たくなってしまって、由梨は彼女の隣にころんと横になる。
 ふかふかのお布団と、太陽の香り、すぴすぴという沙羅の寝息が心地よくて、そのままゆっくり目を閉じる。
 遠くリビングの方でかたんいう物音がする。隆之が帰ってきたのだと思うけれど、どうしても瞼が開かなかった。
 しばらくすると、そっと襖が開き誰かが入ってくる気配。
 ふわりとブランケットが掛けられて、大きな温かい手に頭を優しく撫でられる。
 目を開けずともわかる、彼の温もり、彼の香り。
 今自分は、たくさんの色に彩られた幸せの中にいると由梨は思う。
 この街に来て、彼と出会い、たくさんの喜びを由梨は知った。
 相手を思いやり大切にし合う仲間と共に成功を分かち合うこと。
 好きなことを、自由にできる環境。
 男性に恋焦がれる熱い思い。
 そしてなにより、愛する人に女性として愛されて、大切にされる喜び。
 今、愛する人との間にかけがえのない命を授かり、幸せな家庭を築くことができた。
 これからも自分は、彼らと共にたくさんの幸せに彩られた道を歩んでゆくのだろう。
 うすく目を開くと、沙羅の向こう側に由梨と同じようにゴロンと横になる隆之。気持ちよさそうに目を閉じている。
 彼と出会えたことは、由梨の人生で最大の幸運だった。その奇跡のような幸せを噛み締めて、由梨はまた目を閉じた。
< 42 / 46 >

この作品をシェア

pagetop