追放聖女はスパダリ執事に、とことん甘やかされてます!
 ニックはそう言ってキラキラと瞳を輝かせた。ヘレナは目を見開きつつ、レイのことをまじまじと見つめる。


「そう……レイが…………」

(ずっとただものじゃないって思っていたけれど)


 なるほど、色んなことに合点がいった。
 帰る場所を失ったという話なのに、屋敷に引き取られた頃から、誰よりも礼儀作法が完璧だったこと。そんじょそこらの家庭教師より、余程色んな知識をヘレナに教えることができたこと。人間離れした家事、人事、領地管理能力に、隠しきれない高貴なオーラ。全ては彼が幼少期に王子として培ったものだったのだろう。


「驚かないのですか?」


 恐る恐るといった様子でレイが尋ねる。彼にとって一番怖いのは、ヘレナの反応だった。ヘレナは首を小さく横に振ると、穏やかに目を細めた。


「驚いていないわけじゃないけど、元々レイは王子様っぽいなぁって思うことも多かったし。納得したというか、感心したというか」

「……そうですか」


 レイはそう口にしつつ、ホッと胸を撫でおろす。


「それにしても、どうして突然居なくなってしまったんですか? レイモンド様が行方不明になって、僕達がどれ程心配したことか! 国を挙げて捜索が行われたのに……」

「国を挙げて捜索ですか。……私を行方不明にしたのは正妃様なんですけどね」

「正妃様が?」


 そう言ってニックは目を丸くする。ヘレナもレイの手を握りつつ、そっと顔を覗き込んだ。


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