追放聖女はスパダリ執事に、とことん甘やかされてます!
 とはいえ、焦りがなかったわけではない。


(早く仕事を探さないと)


 いつまでも侯爵家の世話になる訳にはいかないと、当時の私は思っていた。何の縁もゆかりもない私を、まるで本物の息子のように扱ってくれることは嬉しい。急ぐ必要はない、ここに居てくれて良いともヘレナ様のご両親は言って下さったが、何の役にも立たない人間を屋敷に置くメリットは皆無だ。穀潰しにはなりたくなかった。


「……? レイはわたしと遊んでくれているじゃない。勉強もすっごく分かりやすく教えてくれるし。役立たずだなんて、誰が言ったの?」


 そんな私に、ヘレナ様は唇を尖らせた。


「それは……私自身がそう思っただけですが…………」

「だったら、何も気にせずここに居れば良いじゃない! レイが居なくなったらわたしが寂しいもの」


 そう言ってヘレナ様はシュンと肩を落とした。不用意に本心を漏らしたことで、ヘレナ様の心を煩わせてしまった自分が恨めしい。「ありがとうございます」と口にして、私は小さくため息を吐いた。

< 78 / 97 >

この作品をシェア

pagetop