追放聖女はスパダリ執事に、とことん甘やかされてます!
 ヘレナ様は幼い頃からとても聡明な方だった。聖女としての務めのみならず、次期王太子妃としての教育も受けなければならない。けれど、彼女は文句ひとつ言わずにそれらを熟していた。早朝、起床してすぐにお祈りを捧げ、昼には登城。夕方帰宅前に神殿で再度お祈りを捧げ、ようやく帰宅出来る。
 遊ぶ時間も好きなことをする時間も殆ど取れないタイトなスケジュール。そんな日々の中、ヘレナ様は時折ふと寂し気な表情を浮かべる。そんな時にそっと外へ連れ出すと、ヘレナ様はとても楽しそうに笑ってくれた。


「レイが来てから、ヘレナは本当によく笑うようになったな」


 そう口にしたのはヘレナ様の兄上――――後のマクレガー侯爵だった。私と同い年の彼は、まるで友人のように気さくに声を掛けてくれる。


「――――初めてお会いした時から、ヘレナ様はずっと笑っていらっしゃいましたが」


 答えつつ、私はそっと目を伏せた。
 私は決して嘘は言っていない。ヘレナ様はいつも笑顔だった。ただ時折、笑顔の中に複雑な感情を滲ませていただけで。


「そりゃ知っているさ。だけどレイと居ると、本当に嬉しそうに笑うんだよ、あいつ」


 そう言ってマクレガー侯爵は笑った。何ともむず痒い気持ちにさせてくれる。

 私が何故ヘレナ様の些細な変化に気づけるか――――それは、彼女が私とよく似ているからだ。
 ストラスベストの第二王子として育てられた私は、幼い頃から自分を殺して生きてきた。国のため、周りの期待に応えるために聡明でなければならなかった。子どもであることは許されなかった。いつしか自分の考えというものは無くなり、周囲の望みが自分の望みに変わった。

 ヘレナ様はきっと、私と同じようなプレッシャーの中生きている。温かなご両親、優しい兄や使用人に囲まれていても、どうしても埋められない溝があるのだろう。甘えたくとも上手く甘えられない――――そんな風に感じられて、手を差し伸べずには居られなかった。

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