追放聖女はスパダリ執事に、とことん甘やかされてます!
 事件が起きたのはそれから数日後のことだ。


「――――ヘレナ様が?」


 ヘレナ様の行方が分からなくなったと、従者の一人が慌てて帰って来た。何でもヘレナ様はいつものように神殿で祈りを捧げた後、突然どこかへ駆け出したらしい。数人の従者が付いていたというのに、皆が彼女を見失ってしまった。必死になって探し回っているものの、一時間が経った今でも見つかっていないのだという。
 私は居てもたってもいられず、屋敷から駆け出した。


「聖女様っ!」


 従者がヘレナ様を見失ったという辺りで、私は声を張り上げた。全身が汗だくで気持ちが悪い。けれど、そんなことに構っている余裕は無かった。神殿や泉の周辺、路地裏と街の隅々まで走り回り、必死に声を張り上げる。


(一体何処にいらっしゃるのだろう?)


 息を切らしつつ、私は首を垂れた。
 ヘレナ様の足ならば、そう遠くへは行っていないだろう。彼女が自分の意志で駆け出したのなら、この辺りに居るのは間違いない。けれど、段々と日没の時間が近づいている。これだけ探しても見つからないのだ。恐らくヘレナ様は、自力では出てこれない場所にいらっしゃるのだろう。


(早く見つけて差し上げないと)


 焦燥感がじりじりと胸を焼く。その時だった。


「――――――レイ」


 風に乗って、微かにヘレナ様の声が聞こえた気がした。気のせいだろうか。そう思いつつ耳を澄ますと、「レイ」と確かに私の名前が聞こえる。


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