課長に恋してます!
 帰りはビクトリアピークから出ている2両編成の赤いピークトラムに乗って中環まで戻って来た。
 
 駅から出ると、高層ビル街のど真ん中にいた。
 ひときわ目を引くのはIFCの超高層ビル。88階建てのオフィスビルで、香港で二番目に高いビルだと課長に教えてもらった。
 そのビルに連結するようにIFCのショッピングモールがあって、課長がその前で立ち止まる。

「夕飯は何がいい?」

 課長に聞かれた。
 このまま真っすぐ空港に行くつもりだった。

「ご一緒していいんですか?」
「一瀬君が嫌でなければね」

 人差指で左頬をかきながら課長が言った。  
 胸がいっぱい過ぎて食欲はないけど、まだ課長と一緒にいたい。

 あまりお腹が空いてない事を話すと、課長はショッピングモールの3階にあるカジュアルなカフェに連れて来てくれた。

 コーヒーを持って課長と窓際の席に腰を下ろした。
 丸いテーブルを挟んで課長とは向かい合う位置になる。

 視線を窓の方に向けるとビル街のイルミネーションが見えた。
 建設中のビルや、新しいビルがあって、毎日、ちょっとずつ姿を変える東京に似てる気がした。

「中環駅に近い方が空港に行くのに便利だから、ここにしたけど、大丈夫だった?」

 課長が穏やかな声で聞いてくれる。

 空港という言葉が寂しい。
 もう少しで魔法のような時間が終わってしまう。

 日本に帰ったら、また課長のいない日々。
 寂しい……。

 だけど、寂しそうにして課長を心配させてはいけない。

「はい。大丈夫です。いろいろとお気遣いありがとうございます」

 膝の上で手を合わせて、課長にお辞儀をした。

「今日は本当に楽しかったです。観光に付き合って頂きありがとうございます」
「友だちの代理には力不足だったかもしれないけど、楽しんでもらえて良かった」
「力不足なんてとんでもないです! デートしてるみたいで、むしろ友だちより良かったです!」

 デ、デートだなんて、勢いにまかせて言ってしまった。

 課長、図々しいと思った?
 それとも私の事、とんだ勘違い野郎だって思った?
 
 怖くて課長の顔が見られない。
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