課長に恋してます!
「デートか」

 腕を胸の前で組みながら課長が静かに言った。

「そんな響き、久しぶりに聞いたな。最後にデートしたのは結婚前の娘と二人きりで映画を観に行ったぐらいだよ」

 課長はいつもと変わらず、落ち着いている様子。
 当たり前か。意識して動揺しているのは私だけなんだから。

「娘さんとデート、いいですね」

 相槌を打つ声が少し上ずった。
 恥ずかしい。なんでこんなに緊張しているんだろう。
 香港に来てからずっと課長と二人きりだったのに。

 二人きり……。

 そう思ったらカアッと顔中が熱くなる。
 恥ずかしくて課長の顔を見られない。

 心臓もドキドキして、落ち着かない。

 これ以上、課長と二人きりなんて無理だ。

「あ、あの、お手洗い行ってきます」

 こんなに真っ赤になっている顔を見られたくない。
 テーブルに飲みかけのコーヒーを置いて、逃げるように席を立った。

 お手洗いに行き、個室に入った。
 まず深呼吸をするけど、胸がいっぱいで、呼吸するのも苦しいって思うぐらいガチガチに緊張してた。
 指先なんて震えている。

 課長と二人でいる事を意識したら急にそうなった。
 初めて異性を意識した中学生みたい。
 
 いい年して、何やってんだろう。
 一人暮らしして、仕事して、社会人としてそれなりにやってきたいい大人なのに、すっかり心は思春期だ。
 敏感過ぎて困る。

 それに比べて課長は全く動じない。
 冷静で、大人で……。

 それもそうだよね。
 課長は私の事、元部下って以外の目では見てないんだもん。
 今日、付き合ってくれたのだって、看病のお礼だって言ってたし。
 特別私に気がある訳じゃないんだよね。

 片思いなんだって骨の髄まで感じる。

 はあ。今度は落ち込んだ。
< 88 / 174 >

この作品をシェア

pagetop