秘書の溺愛 〜 俺の全てを賭けてあなたを守ります 〜
「少しは気が紛れたのか?」


出社すると、室長が気づいて声をかけてくれた。


「室長、俺、会社辞めていいですか?」


そう言って自虐的に笑うと、室長の顔色が変わった。


「服部、今夜付き合え。強制執行だからな」

「はい・・。気遣ってもらって、すみません」

「何言ってんだよ。社長には、俺から上手いこと話しとくから」

「・・ありがとうございます」


助かった。

ひとりで考えるには限界があったし、室長と飲みに行くことさえ、今の俺には、桜に上手く伝えられる気がしなかった。

どうして?とか、何かあった?と聞かれたら、答えに詰まってしまうから。


社長室の窓から通りを見下ろすと、見知った車から桜が降りてきた。

当然、その助手席のドアを開けているのは藤澤で、車から降りた桜の肩を抱く。

さらりとその手を払い除けた桜は、俺が以前言ったことを覚えていたんだろうか。


『桜さん、嫌がってませんでした』


嫌がったということは、俺の存在を、少しは考えてくれたんだろうな・・。


そんな些細なことに少し感動しながら、これから桜に告げなければならないことを考えると、胸が詰まった。


『別れたい』


俺がそう口にしたら、桜はどんな反応をするだろうか。


それも、ただ恋人同士の関係を終わらせるだけではなく、俺は桜の前から姿を消すんだ・・。

そこまで、思い詰めていた。
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