身代わり花嫁として嫁ぎましたが、どうやら旦那様も身代わりのようです?

 翌日。

 新しく来てくれた主治医の先生に念入りに本物かどうか確認してからご挨拶をして、ユーリ様と私は街に向かった。

 雲一つない青空の下、私たちが向かった先は、食堂『アルヴィラ』。

 そこは、私とユーリ様が初めて出会った場所だ。私は出会った日のことは覚えていないのだが、ユーリ様は初めて会った日のことも、誕生日のお祝いをした日のことも全部覚えていると言って照れ笑いをする。


「……おばあちゃん!」


 食堂の裏庭で畑作業をしているおばあちゃんの姿を見つけ、思わず遠くから大きな声で叫んだ。おばあちゃんは私の声で体を起こし、みるみる笑顔になっていく。


「リゼットじゃないか、ロンベルクへ行ったんじゃなかったのかい? もしかして旦那様と一緒に……あら、あなたはあの時の……」


 私の後ろにいたユーリ様とおばあちゃんが、顔を見合わせる。そうか、ユーリ様もこの食堂に時々来ていたというから、おばあちゃんと顔見知りなのね。


「ご無沙汰しています」
「あら、そうかい。貴方がねえ……」


 私の知らないところで、ユーリ様とおばあちゃんの話が通じているのが不思議だけど、ユーリ様はよっぽど常連さんだったのかしら。

 その日は食堂は休業日だったらしく、おばあちゃんは私とユーリ様のために店を貸し切りにしてくれた。

 私たちは窓際の席に、向かい合って座った。
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