失われた断片・グラスとリチャード
夕方、
街路灯のガス灯の明かりが、
灯(とも)りはじめる時間だった。

リチャードはこの時間から、
自分の経営する、社交クラブの見回りを、せねばならなかった。

猥雑、淫靡、混乱、背徳、
退廃、不道徳、倒錯

性にからむ営みは、
夜の闇と親和性を持つ。

リチャードの顧客は、
裕福な貴族、王族、政治家とも、
関わり合いのある者が、多かったので、
商品には、十分注意をしておかなければいけない。

見た目の美しい、品よく、それなりの教養を持つ、
商品を、用意しなくてはならなかった。

そして、男女の秘密を、
絶対に守り通す事ができる商品。

リチャードは、商品たちの
教育に力を入れていた。

顔だけきれいでも、
気の利いた会話もできないようではすぐに売れなくなる。

上品さ、立ち居振る舞い、
語学、高級なドレス、ダンス、
歌や楽器演奏

フェイクの上流階級の淑女、
または、奥方のいるサロンをつくることが、
よい顧客を、リピーターにする条件だった。

しかし、ベッドでは・・異なる。
顧客は、その落差、
ギャップを楽しんでいる。

リチャードは、次の仕事として
舞台脚本を手掛けていた。
その内容も、王族や貴族を皮肉った話だ。

あと数分で、迎えの馬車がくる。
< 10 / 73 >

この作品をシェア

pagetop