失われた断片・グラスとリチャード
強い緊張感、強張り(こわばり)、肩に力が入っている。

まるで殴られるか、打たれるのを、待っているかのように・・・

リチャードは、すっと息を吸った。
女を、殴りつける趣味の男がいる。

リチャードは商売上、
いろいろな顧客を見て来たが、
商品を傷めつける客は、
どんなに金を積んでも、店には入れない主義だった。

商品が、使い物にならなくなる、

それに、
自分より、力の無い女を支配する、暴力で支配する趣味は、
彼にはなかった。

「別に・・コーヒーを頼む」
「はい、わかりました」

グラスは風になびくように、
すっと台所に引っ込んだ。

窓からは、空が見える。

雲が解き放たれたように、
どんどん形を変えていく。
リチャードは、手元の本を広げた。

グラスが、コーヒーをお盆に乗せて運んできた。
お盆には、昨日渡した鍵束が、
乗っている。

「これは?」
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