失われた断片・グラスとリチャード
「私が使うのは、門番小屋と、
食品庫、台所の出入り口だけですから。
後は必要ありません」

「わかった」

グラスは、
うつむいてはいなかったが、
その瞳は、やはり生気が感じられない。

リチャードを見てはいるが、
ただ、写しているだけだ。

死霊(しりょう)・・・
そんなイメージが重なる。
珍しい色合いの、
美しい宝石のような瞳なのだが・・・

「お食事の準備をいたします」
そう言うと、台所に戻って行った。

リチャードは、お盆の上の鍵束を
見つめていたが、ポケットにしまった。

禁欲?無欲?虚無?
空っぽ?あきらめ?

不思議な奴だ。

リチャードは、現実である
目の前の皿を眺めていた。
グラスが持って来たものだ。

焼きたてのパン、バター、
カリカリに焼いたベーコン、オムレツ、ジャガイモのガレット

これで、サラダがつけば、
レストランの朝食ではないか。
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