失われた断片・グラスとリチャード
リチャードには、思い当たる事があった。

娼館の女たち。
彼女たちは、自分より美しく、
仕事のできる、新入りの若い娘を、やっかみ、いじめる事がよくある。

難癖をつけ、嘘を密告し、
辞めるように、追い込むのだ。

普段は、いがみ合う関係の女たちも、そんな時は、結束を固めてしまう。

この娘も、守ってくれる人もなく、荒波にもまれ、
生気を、削られてきたのか。

膝の上に重ねるように
置かれている手は、やけどの跡、切り傷がある。
それでも爪は、ピンク色で、
指は細く、美しい。

「ここに来る前は、何をやっていたのか?」
リチャードの質問に

「保養所で・・・
病気の奥様の、お世話をしていました。
その方が、お亡くなりになったので・・」

リチャードは、納得した。
足湯も湯たんぽも、
そこでの経験が、あったからだろう。

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