失われた断片・グラスとリチャード

アイスクリームと薔薇の花

夕食前のラウンジは、閑散としている。
給仕が、すぐにやってきて、
グレイスの椅子を引いてくれた。

「私はコーヒーを・・彼女には・・」

叱られた子どものように、
うつむいてしまっているグレイスを見て、
リチャードは言った。

「彼女には・・アイスクリームを」

給仕が立ち去ると、
「うつむくな。
もっと、姿勢よく、綺麗なのだから・・」

リチャードは自分で言って・・
気まずくなってしまった。

昔の記憶・・
ずっと封印していた記憶。
目の前のグレイスは、彼女とは似ていない。

年頃は、同じくらいだったろうか・・・
彼女はよく笑った・・
が、グレイスは笑わない・・・

「申し訳ありません。
だん・・リチャード様」

「別に、謝らなくてもいい・・」
リチャードは、口に手を当てた。

目の前の娘に、
どう接していいかわからない、自分がいる。

「お待たせいたしました」
給仕がトレーにコーヒーと、
銀の器にアイスクリームを乗せて、持って来た。

リチャードは、コーヒーを飲み、
入り口に視線をやって、
待ち合わせに来る、知り合いの姿を捜していた。
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