失われた断片・グラスとリチャード
目の前のグレイスは・・・
溶けていくアイスクリームを、
凝視している。

「早く食べないと、溶けるぞ」

リチャードに促されて、
ようやっとスプーンを手にした。

「えっ・・甘い・・」
それは、
花のつぼみがほころんで、
いきなり咲いたような笑顔だった。

次々と、花が咲き乱れて・・・
そんなイメージだった。

リチャードは、初めて見た笑顔に、コーヒーカップを持つ手が止まった。

思わず、見とれてしまったのだ。

「私・・初めてで・・」
美しい宝石の瞳が、満足げに細められた。

「そうなのか・・・」
吐息のように、
リチャードから、吐き出された。

「とても、おいしいものなのですね」
グレイスは、大切な物を扱うようにスプーンを口に運んだ。

<あなたは・・
甘くて、香(かぐわ)しい>
<それは、私に喜びを与える>

自分の書いた脚本の一節が、
自然に出て来てしまう。

< 50 / 73 >

この作品をシェア

pagetop