失われた断片・グラスとリチャード
「おい、おい、
まったく隅においておけないな?
リチャード・グロスター?
こちらの美しいお嬢さんを、
紹介してくれないのかな」

大股で、トップハットを片手に
紳士が歩いてくる。

リチャードは、その声を無視して、コーヒーを飲んだ。

それから、
大げさにやっと気が付いたというそぶりで

「遅刻だぞ。ハモンド」

ハモンドと呼ばれた男は、
すぐに開いている隣のテーブルに座り、給仕に合図をした。

「私にもコーヒーを。
さて、お嬢さん?」
ハモンドは、人懐っこい笑顔を見せた。

「彼女はグレイス・グリーン、
私の取引先の妹さんだ。
昨日、こちらに来たばかりだ。
これから帰るので、
ホテルに送るところだ。」

リチャードは、突っ込みがこないように一気に言った。
ハモンドはじっと、グレイスを見ている。

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