失われた断片・グラスとリチャード
「それから、私は裁判にかけられ、有罪になった。

エリザベスの父親は、
死刑にしろと、騒いだからな。
裁判官にも、相当な金を渡したのだろう。

死刑にはならなかったが・・
私の足は、不自由になり・・
生きた屍(しかばね)になった」

「ハハハハ・・・」

リチャードは、乾いた笑い声をあげた。

「グロスターの名前は、地に落ち、泥にまみれた。
粉々になった」

「いや、粉々にしてやろうと、
私は思ったのだ。」

リチャードも、その腕の中のグレイスも同じように、息をついた。

「不道徳、神を冒涜(ぼうとく)する者、
そのように、生きていこうと・・・」

リチャードの腕の中のグレイスは、枯草、麦わらの匂いがする。

厚く重い、灰色の雲が流れる、
そのなびく枯草の中で、
風に、立ち向かうように立つ
少女。
虚無・・だが、屈してはいない。

リチャードは、
グレイスを抱く腕の力を、少し緩めた。

「お前は・・
エリザベスとは、似ていない・・
むしろ、
私と似ているのだろう」

リチャードは、グレイスの首元に
顔を埋めた。
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