俺様パイロットは揺るがぬ愛で契約妻を甘く捕らえて逃さない
「カフェで勉強してるお前の横顔見てるとき、唇に俺のやった口紅を塗ってあるのに気づいて、たまらない気持ちになった。いつも飛行機ばっかりに向けられているお前の瞳が、少しだけでも俺に向いてくれたようで……ガキみたいに浮かれたんだ」
自嘲気味に語る深澄さんに、いつもの不遜な様子はない。
まさか、本心なの? それともお芝居の続き?
半信半疑ながらも、胸が微かに揺れ動く。
「だから、今さら結婚から逃げるとかはナシだ。明日実家に行って婚姻届にサインももらってくる。大人しく俺のものになれ、光里」
強引さの中に優しさをにじませた笑みで、深澄さんが言い聞かせる。
たとえば自分にちゃんと自信のある、さっきの高城さんならこの言葉を素直に受け取って喜ぶのかもしれない。
でも、私は整備の仕事しか知らないし、七つも年上で、容姿も経歴も現在の活躍も完璧なエリート副操縦士に気に入られている状況に、正直戸惑う。
契約結婚は契約結婚でも、時にはこうして恋愛ごっこのようなことをして楽しみたいとか?
そうだとしたら困るけど、でも――。
「逃げませんよ……今さら」
弱気な声ながらも、自分の意思を告げた。