生まれ変わっても、君でいて。
 乗り込むときに少し体勢を崩してしまい、自転車を倒さないように咄嗟に庇うと、赤沢君がすぐに私の腕を掴んでくれた。
「大丈夫?」
「あ、ありがと……」
 こういうことをサラッとできてしまうのは、やっぱり赤沢君が人生を何周もしているからなのだろう。
 少しドキッとしながらも、緊張を悟られないように私は何とか船に乗り込み、束の間の海の旅を楽しんだ。

 向島に着くと、船の出口と港がぴったり平行に繋がって、そのまま自転車に乗って降りていいと案内された。
 私は戸惑いながらも自転車に跨り、船から地上へと漕ぎだした。
 眩しい太陽を全身に浴びながら向島へ入った瞬間、胸の内からワクワクした感情がわきおこってくる。
「気持ちいい……」
 思わず感想が口から漏れ出てしまい、すぐに口を閉じる。
 ちらっと隣にいる赤沢君を見ると、彼もそれなりにサイクリングを楽しんでいる様子だ。
 しばらく移動すると、左手に青く澄んだ海が見えてきた。
 青い絵の具をそのまま流し込んだかのような青い海に、思わず気を取られてしまう。
 同じように真っ青な空と合わさった絶景に、心の奥まで澄み渡っていくような気持ちになった。
「なんでサイクリングに未練があったわけ?」
 しばらく自転車で並走していると、赤沢君が走りながら問いかけてきた。
「夢花と……、いつか行ってみたいねって話してたんだ」
「へぇ、アクティブな友達だね」
「ううん、夢花も私も超インドアだよ。でも、高校生になったら一度くらいこういうことしてみたいねって話してて」
 そこまで話すと、赤沢君は「ふぅん」と興味なさげな相槌を打ってから、「ラムネ飲まない?」と突然提案してきた。
 たしかに、このあたりにラムネが有名なお店があると、ネットで調べた時に出てきたな。
 やっぱり赤沢君、昔向島に来たことあるんじゃないかな……。
 そう思ってしまうほど、段取りがいい。
 ラムネと書かれた水色の旗が見え、私達はお店の前で自転車を止める。
 中に入るとビールケースのようなものが店内に山積みされていて、レトロな冷蔵庫に瓶入りのジュースがたくさん並んでいた。
「おばちゃん、ラムネ二つ」
 店員さんにお金を払おうとしたけれど、赤沢君が二人分まとめて払ってくれた。
 何もかも先を越されて行動されてしまうので、正直追いつけない。
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