生まれ変わっても、君でいて。
秘密の出会い
■秘密の出会い 

 もし、死んでも生まれ変われるのだとしたら、人は何になりたいと願うのだろう。
 今よりも可愛く?
 今よりもお金持ちに?
 今よりも幸せに?
 それとも、また自分になりたい?
 私は、私以外の人間になりたい。
 性別も、顔も、声も、性格も、何もかも全く真逆の人間になりたい。
 私という人間が跡形もなく消えた世界で、生きていきたいと願っている。……ずっと。

「指定難病のひとつです。残念ながら、今のところ明確な治療法は見つかっておらず……ここ一年を覚悟した方がいいかもしれません」
 白髪交じりの医師は、カルテを見ながらはっきりとそう告げた。
 まるで他人事のように聞いている私の横で、母親は魂が抜けきったような顔をしている。
「一年……? こ……この子はまだ、十七歳になったばかりですよ……」
「まずはどこの細胞に異常があり、どんな症状があるのか、調べていきましょう。この病気の症状はかなり幅広いですから、特定することが大切です」
 なんとか母親を落ち着かせようと冷静に説明する医師。
 けれど、母親は心ここにあらずで、全く現実を受け止めきれていない様子だ。
「先生がさっきから、何のお話をされているのか……」
「お母さん。次は旦那さんも一緒に連れてきてください。大事な話になりますから」
 語気を強める医師の言葉にも、母親は全く反応を返せていない。
 ここ最近、疲れやすいと感じることが何度かあって、ついに体育の授業中に倒れてしまい、救急車で運ばれてから約一カ月が過ぎた今日。
 紹介された大学病院で、ようやく病名を知ることができた。
 難しい話ばかりでよく分かっていないけれど、とにかく私の肝臓は上手く働いてくれていないらしく、あと一年ほどしかもたないらしい。
 意識をどこかに飛ばしてしまっている母親とは反対に、私は至って冷静に受け止めていた。
 医師から病を宣告されたその瞬間――、私は、ああやっぱりそうなんだ、と思った。
 中学生の頃から漠然と『十代で死ぬかもしれない』と思って生きていたから。
 別に、自殺願望があったとか、そういう訳じゃない。
 ただ、大人になった自分を、一切想像できていなかっただけで。
「お母さん、先生困ってるから……、もう行こう」
「嘘よ、粋(すい)……、だってこんな……」
「家で話そう」
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