ひと夏のキセキ

喪失 -遥輝side-

病院に着いた時の葵は、さっきまでの勢いはなく、静かだった。


「いつまでヘルメット被ってんだよ」


「…うん…。なんか嫌な予感しちゃってさ」


嫌な予感?


なんだそれ。


「お前そんなのアテにするタイプだっけ」


「うーん。気のせいかも」


「…なんなんだよ」


そんなこと言われるとザワザワしてくんじゃん。


「…ごめん。行こっか」


「あぁ…」


…何もないよな。


絢、大丈夫だよな?


病院に入ると、ちょうどタイミングよくアイツが近くにいた。


退院する患者の見送りをしている様子だ。


あの患者が絢ならどんなに嬉しいか。


「…親父」


患者が去ってから声をかけると、ハッと驚いたような顔をされた。
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