キミは海の底に沈む【完】
「り、、理由を、教えてください…」
「あ?」
「落ちろだなんて、──そんな、」
ふ、と、バカにしたような笑い方をした藤沢さんは、「小学生の時、」と、グイっと自らの方へと引き寄せた。
その力はさっきよりも強く、私は簡単に、藤沢さんの元へ誘い込まれた。
「潮がここから突き落とした、そんで記憶が戻った。それが理由」
笑いながらそう言われ、私の体が固まるのが分かった。今、なんて言ったこの人は。
潮?それって、桜木さんのことだよね。
桜木さんが、私を、プールに突き落とした…?
過去に、私を虐めたことがある桜木さん…。
「…で、でも、」
「お前が、現れたから──…」
「え?」
さっきとは打って変わり、眉を寄せ、鋭い目を私に向け、怖い顔をする男。
今更、この男は危険だと、脳が危険信号を送り出す。
「潮を返せよ」
「は、離し、」
「返してくれよ」
「痛いっ…」
「お前のせいで…!!」
力任せに掴まれた腕。痕が残りそうなほど強く掴まれ、私は痛みで顔を歪めた。
「お前も死ねば良かったのに」
そう言われた瞬間、私の体が浮いた。
地面に、足がついていなかった。
空へ飛ぶ感覚がして、内臓が体の中で落ちた。
その瞬間には体が水面に叩きつけられ、背中に痛みが走った──。
咄嗟のことで、口を開き、喉の奥から空気がゴホゴホと出てきたと思えば、鼻の中に水が入りツンとした痛みが鼻の奥を貫く。
水から顔を出そうにも、焦っているせいで、上手く上がれず。
──水中で、目を開けた。
ぼやける、見えない、夜のせいか暗くて何も──…。月明かりが──…。月明かりだけが──…。
その方向に手を伸ばした。
その手が、さっきよりも小さく感じて…。
「──ッ、ゴホ、ゴホゴホ!」
やっと水中から顔をだし、必死に息をした。
水を飲んでしまったのか咳が止まらず、嘔吐くような気持ち悪さが止まらない。
鼻も痛く、背中も痛い。
よっぽど強く、水面に落とされたらしく。
涙を浮かべながら、震えながら彼の方を見た。
藤沢さんは、怖い目で私を見下ろしていた。
「こうやって落としても、明日には忘れるもんな。──お前、バカだから」
バカ、バカ、バカ──。
怖くて声が、出なかった。
髪から水が落ちていく。
その瞬間、似たような言葉を、どこかで聞いたような気して。
────『ああ、明日になれば、もう今日のこと覚えてねーもん』
あれは、あれは、あれは。
ランドセルを背負った──……。
────『知ってるか?あいつ──……』
「思い出した?」
僅かな記憶の中に、桜木さんはいた。
桜木さんは、転んでいる私を見て笑っていた。
これは私を、虐めていた時の記憶だ。
「お前が自分の父親と、キヨウダイを殺したこと」