激情を抑えない俺様御曹司に、最愛を注がれ身ごもりました
「いらっしゃいませ」
階段の先にある引き戸の入り口を開けると、中から男性の声が聞こえた。
入ってすぐのカウンターの向こうに立つ、白い板前服に身を包んだ男性が「香椎先生、こんばんは」と香椎さんに声をかける。
「どうぞ、一番奥の席へ」
そう促されると香椎さんは「ありがとうございます」と慣れた足取りで店内奥へと入っていく。
あとについていくと奥は個室席になっていて、その一番奥の席に香椎さんは入っていった。
黒いテーブルに黒い椅子。落ち着いた雰囲気の客席に向かい合って腰を下ろす。
テーブルの横の壁はニッチになっていて、カキツバタが生けられていた。
「一杯やりたいところだが、今日は車なんだ。アルコールが飲めるなら好きなものを」
置かれているメニューを手に、香椎さんは視線を寄越す。
「私も、ノンアルコールでいいです」
「飲めないのか」
「あ、いえ。そうではないんですけど、今日は帰ってまだやりたい仕事があるので」
新しいカラージェルが届いて、今晩はサンプルのカラー見本を作りたいと思っている。
お酒に弱いわけはないけれど、綺麗にチップに色を塗りたいから素面でやりたい。