ヒロインよ、王太子ルートを選べ!
「レオ様! 遅い時間に申し訳ありません。なかなかお会いする機会がなかったので……」


 ああ、レオ様の顔がまっすぐ見られません。九年間見続けたこのお顔をこんな近くで見るのは最後かもしれないのに。


「いや……別にそれは……なんだか罪悪感もあるし」


 罪悪感(・・・)ですか。そうですよね、レオ様は本当は優しい方だっていうのは良く分かっているつもりです。九年間も婚約していた私との別れに気を遣ってくれているのですね。私は大丈夫です。遠くからレオ様の幸せを願ってます。


「あの、これ……レオ様に」


 お返ししようと思っていたものを渡します。ネックレスは傷がつかないようにしっかりと包んで、鉢植えはさっきそこの畑の横で水を上げたので、そのままの姿で申し訳ないですね。


「私、少し王都を離れて旅行に行ってこようと思っています。レオ様と離れ離れになりますが、いつもレオ様のことを思っていますので……どうかおげんきで頑張って…………言葉遣いにも気を付けて!」


 ダメだわ、涙がこぼれそうになって、最後だけ変に大きな声になってしまいました。恥ずかしくて背中を向けます。


「コレット……これは……そういう意味なのか?」


 少し間をおいて、私の背中に向かってレオ様が震える声で言います。婚約者に送るネックレスをお返ししたんですもの。私が何も言わなくても分かってしまいますね。震える声は、私とお別れする寂しさ? それとも、新しい婚約者のメイ様にネックレスをお渡しできる嬉しさ?

 涙がこらえきれず、両手で顔を隠します。暗闇で私の涙が見られていなければいいけれど。


「それでは、私は行きますね。どうか……次の方を大切にしてください!」


 次の婚約者様のことを大切にしてください。嫌がらせなんてしちゃだめですよ。私は少し離れたところまで走って、涙が見えない場所まで来て振り返りました。レオ様に、最後は笑顔でさようならをしたいから。

 王宮の裏口近くで立ち尽くしているレオ様に、小さく手を振ります。さようなら、レオ様。今までありがとうございました。
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