ヒロインよ、王太子ルートを選べ!
「私は毎日このお店に来ていますので、コレット嬢もこちらに来ていただいたらすぐにお教えしますよ」
「まあ、ありがとうございます! 実は、事情があって完成を急いでいるの。早速今からというのは無理でしょうか? 来月までには、少し形にしておきたいんです」
「来月まで……ですか。それは急がないといけませんね。編み物が初めてでしたら、毎日編まないと間に合わないと思います。少しスパルタですが、すぐに始めましょう」
「師匠……! ありがとうございます!」


 編み物と言えば女性……なんて、私ったら変な思い込みをしてしまって申し訳なかったわ。勝手に女性に教えてもらうつもりでイメージしていたけれど、偏見はいけないわね。

 案内をしてくれたウェンディ様に御礼を言って、私とメイはエバンス様に編み物を習い始めました。

 来月までには、基本的な編み方くらいは覚えておきたいのです。みんなの前で断罪されて国外追放になったら、修道院に入って編み物をしましょう。そして、子供たちにたくさん手ぶくろを編んであげるの。私が自分の子どもを産めなかった代わりに、他の子どもたちをたくさん喜ばせたいわ。


「この店は赤ちゃんの肌にも優しい天然素材をウリにしていますからね。良い物が手に入ると思いますよ。……おや、コレット嬢、もしや泣いてらっしゃいますか?」


 エバンス様はド近眼なのか、私の顔をものすごくマジマジと覗き込みながら言います。自分でも気づかなかったけれど、少し涙ぐんでいたようです。


「失礼しました、これで編み物ができると思ったら嬉しくて。さあ、始めましょう!」


 私たちはそこから毎日のように、お店に通って編み物を続けたのでした。
< 157 / 244 >

この作品をシェア

pagetop