ヒロインよ、王太子ルートを選べ!
「毎週若い女性がレオ様の元に通っているってもっぱらの噂です」 
「若い女性と言うのは……ポーラのことか……」


 私は首を何度も縦に振ってうなずきます。嫌だわ、レオ様……顔が青いだけならまだしも、体が溶けてませんか? ソファーと一体化しそうなくらいしょぼくれてるけど。


「ポーラは王家の侍医の弟子なんだ。彼女は毎週、母上の診察に来てただけ。それ以外で話をしたこともない。母上の懐妊のことはできるだけ内密にしようと思っていたから、誰かに任せずに俺が直接応対して、母上の部屋に案内したりしていた。それがどうして俺の側妃だなんて話になったんだろう……」
「つまり、ポーラ様は側妃ではない……ということですか?」


 レオ様は大きく頷きます。
 そんなに思いっきり否定されても……じゃあ、今まで私が信じてきた噂はなんだったの?


「ミルズ侯爵家のお茶会でも、皆さんその話題でもちきりでした。それにレオ様がポーラ様に『お腹の子は大丈夫か?』って声をかけるところを見たという方もいました。全て違うのですか?」


 レオ様が寂しそうな目で私を見ます。そんな目をされると、罪悪感を感じてしまうじゃない。別に私、あなたを尋問しているわけではないのよ?


「そんな噂が立ってたのか。お茶会に行ってその話題で持ち切りだったら、コレットも辛い思いをしただろう。何も対処ができていなくて申し訳なかった。もう一度言うけど、ポーラと俺は全く関係がないよ。母上が安定期に入るまで、ポーラに王宮に来てもらって診てもらっていただけだ。その情報がどこかで漏れて、変な噂が立ってしまったんだと思う……すまなかった」


 つまりポーラ様は側妃ではなく、王妃様の診察に来ていただけだった。懐妊したのも側妃ではなく王妃様だった。

 それが真実だということなのですね。

 それなのに私はまた一部の情報だけを信じて、壮大な勘違い妄想をしてしまったんだわ。


「レオ様……私また変な勘違いでした。申し訳ありません……」
「いや、俺が色々と秘密にしていたのが悪い。この五カ月間、何一つ説明もしていなかったんだから。でも、どう考えたって俺が側妃なんて迎えるわけないだろ。そこは信じて欲しかった」


 レオ様、違うんです。私だって初めはレオ様の事を信じていました。だけど、ミルズ侯爵家のお茶会でのお話も、毛糸店で出会った時のアランの話も、全てが噂が正しいと言っているように思えたんです。
 忙しいだろうから、お手紙を出すのも会いに行くのも憚られていたし……っていうのはただの言い訳ね。本当は、側妃の噂がもし本当だったらと思うと、レオ様に直接確かめるのが怖かった。

 レオ様の方から、私を求めて欲しかった。

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