断食魔女と肉食神官~拾った子供が聖女に選ばれた魔女のお話~
 魔法を使ってコルセットを締め、神官様が用意したドレスに身を包む。
 髪色に近いシャンパンゴールドのドレス。細かな刺繍が施されていて、派手すぎず、そして地味すぎない。浮いてしまうのが一番問題だから、良い感じに場に溶け込めそうな印象で、わたしはホッと胸を撫で下ろした。


「わぁ、ジャンヌさん綺麗っ! 素敵!」

「はいはい、ありがとう。マリアはホント、褒め上手だね」


 ぶっきら棒に頭を撫でれば、マリアは嬉しそうに目を細めた。


「本当に思ってるもん! ジャンヌさんが一番綺麗! セドリックもそう思うでしょう?」


 マリアが問いかけると、神官様は呆けた表情でその場に突っ立っていた。


「――――別に、無理して褒めなくて良いわよ」


 神官様がハッと大きく目を見開く。それから彼は、大きく首を横に振った。


「そんなまさか! 私はただ、美しいジャンヌ殿の姿に見惚れていたんですよ!」

「どうだか。貴方は自分が一番美しいと思っているでしょう?」


 神官様はナルシストだから。
 己の顔が基準だから、他の人間は全員へのへのもへじ状態に違いない。


「それについては否定しませんが、女性の中でジャンヌ殿が一番美しいと思ってますよ」

(否定しないんかい!)


 思わず吹き出しそうになりながら、わたしは小さく息を吐く。


< 89 / 222 >

この作品をシェア

pagetop