色褪せて、着色して。~悪役令嬢、再生物語~Ⅰ
3,清算
 18年過ごした故郷を捨てる日が来る。
 卒業パーティーから、家族とは顔を合わせていない。
 テイリーと過ごした一夜は、あまりにも濃い時間だった。

 空港で、テイリーに見送られる時。
 もう、会うことも戻ることも出来ないんだろうなあと考える。
 悲しいという実感は湧いてこない。
 不安のほうが大きいのかもしれない。
「ねえ、テイリー。あんたって魔力めちゃくちゃ強いわけ?」
 沢山、騙されてきた中で。
 すっかりと忘れていたけど、テイリーは魔法が使える。
 前に質問した際は、「僕は一切、魔力がありません」と言っていたくせに。

 空港で行き来する人達を眺めながら。
 テイリーに質問すると。
 テイリーは「ああ」と低い声を出した。
「アミラさんの10倍はあるんじゃないですか」
 嘘をついていたことを何とも思っていないのか開き直ったようにテイリーが答えたので。
 私は顔をしかめた。
「それは…何? どうして黙ってたの?」
「必要ないからですよ。それに、ヒューゴ先輩やアミラさんが馬鹿みたいに自分たちは能力が高いって自慢しているのを見て、馬鹿だなあって見下したかっただけ」
 毒を吐くテイリーに、はあ…とため息をついた。
「ちなみに、僕の魔力は木火土金水、どれにも当てはまりません」
「はいっ!?」
 ニヤリと笑うテイリーに悪寒を覚える。
 何かわかんないけど…それ以上は()いても仕方ないように感じた。

 自分が搭乗する飛行機のアナウンスが流れる。
「行かなきゃ」
 椅子から立ち上がると、テイリーも立ち上がる。
「テイリー、ありがとう」
 お礼を言うと、テイリーはじっとこっちを見る。
「あなたは私の救世主だよ」
 テイリーは黙ったままだった。

 お別れだって自覚すると辛いから。
 何も考えないように、離れるしかなかった。
 振り返ると、テイリーはその場に立って手を振ってくれたので。
 私も手を振り返した。

 飛行機の座席に座ると。
 ようやく悲しみがこみあげてくる。
 なんで、こうなっちゃったんだろう・・・

 隣に人がいないことをいいことに。
 うつむいて、声を殺して泣いた。
 もう、戻れない。
 前に進むしかないんだ。

 さようならなんていいたくない。
 これからだ・・・


 つづく。
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