White Snow

side 倖智花

コホコホ。

金曜日の夜に、ツリーをずっと見ていたせいか、週末に熱を出した。
月曜日には熱は下がったが、咳だけが残ってしまった。

今週末には幹事をすることになっている忘年会もあるから、今日はさっさと帰って、ゆっくりしたい!
と思いながらコピーをとっていると

「倖さん」
と真後ろの近い距離から呼ばれた。

振り返ると目の前に前野君が立っていた。距離の近さに驚きつつ、平静を装おう。
「前野君、どうしたの?」
先週のツリーの前で泣いてしまった恥ずかしさをまるでなかったことのように振る舞って、尋ねた。

「倖さん、やっぱり風邪ひいたんですね」
「ああ、少しね。咳くらいだから大丈夫。前野君は大丈夫だった?」
「はい。いつもと全く変わりません」
「それはよかった。熱でも出してたらどうしようかと思ったのよね」
「・・・もし熱出してたら、どうしました?」
「え?そりゃ、まあ・・・『お大事に』ってスタンプを送るかな」
「スタンプって、、、冷たいですね。もし、俺が熱出してたら、それ確実に倖さんのせいですからね。その上で、看病なりなんなりしてもらいたいですよね」
「本当に、前野君が元気でよかったよ。看病なんてめんどくさくて仕方ない」

ツリーの前で会うまで前野君と個人的に話をすることはほとんどなかった。意外にも彼は話しやすくて、おもしろい人だった。


「はい」

前野君は手を出した
「?」
小首を傾げると、
「これ、あげます」
とスティックタイプののど飴を1本くれた。

まだ開封されていないスティックののど飴。もしかしてわざわざ買ってきてくれたのかしら?

「嬉しい。ありがとう」
と笑顔を見せると、
「倖さんはマスク越しでも笑ったのがわかりますね」
とにやりとされた。

「どうして?」
「目がクシャってなるから」
「それ、失礼だからね。しかも先輩に対して結構言うよねえ」
クシャとは失礼なと思い、少し睨んで、文句を言った。

「何いってるんですか。褒めてますよ。倖さんは笑った顔が可愛いって」
と言ってにこにこしながら机に戻って行った。

プリンターの前に取り残された私は、不意の誉め言葉にあっけにとられてしまった。

この歳で可愛いとか言われないし。
なかなかのたらしっぷりにあてられて、恥ずかしくも照れてしまった。


「かわいい」のお礼に今度、私も飴ちゃんを上げよう。まあ、前野君が風邪をひいたらって話だけど。



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