White Snow
「寒さ対策しよう」
「なに?」
しばし夕焼けを堪能したあとに、バイクの椅子を開けた時に出した麻布の袋をあけた。
出したのは大きな手袋が二つとテニスボールみたいな球だった。

「倖さん運動は得意?」
「わかんないけど、体育は8だった」
「8?」
「10段階評価の8」

無言で見つめ合う。

『8』は普通?普通よりちょっといいけど、ものすごく良くはない?
倖さんは誇らしげに俺を見つめているけれど・・・。
「……微妙なところで分からないよ」
「ぼちぼち良いってことでしょ。で、何それ?」

俺はピンクとブルーのカラフルな巨大な手袋と黄色いボールをだした。

「手袋の真ん中にバリバリするのがあるでしょ」
「うん。巨大なマジックテープになってるんだね」
「それは知らない」
「いいの、こういうのマジックテープっていうんだよ。で?」

左手にブルーの手袋をはめるの俺をじっと見て、倖さんも左手にピンクの手袋をはめた。

「テニスボールみたいなこのボールがバリバリにあたるとくっつくの」
「なるほど。この手袋がグローブってことね。どうして片手しかないのかと思ったよ」
「両手だとボールがくっついて投げられないよ」

倖さんははめたグローブを少しの時間見つめたと思うと笑い出した。
「あははは!それはそれでおもしろい!」

きっとボールが手にくっついて投げられなくなっている様子を想像したのだろう。
「笑えるだけでしょ。よし、キャッチボールしよ」
「うん!楽しそう!する!」
倖さんはぱあっとした、満面の笑顔を見せた。

二人できゃーきゃーワーワー言いながらキャッチボールをする。
たまに、手袋にくっつきすぎて離れなくなって、必死にもぎ取ろうとしている姿がとてつもなくかわいかった。
「倖さん、うまいじゃん」
「だから、体育8って言ったでしょ?」
「それ微妙過ぎだって」

体を動かすと暖かくなってくる。
「ちょっとタイムー」
汗をかく前にダウンコートを脱ごうと、ファスナーを下ろした。


「あ!」
倖さんが目をキラキラさせて俺に近づいてきた。
「ね、前野君。見て」
倖さんの視線の先に目をやる。


そこには時間がたつにつれて、色が変わった夕焼け空があった。


目を輝かせている倖さんを愛しいと思った。




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