White Snow

side 倖智花

左手にブルーの手袋をはめる前野君の真似をして、左手にピンクの手袋をはめる。
実はキャッチボールは得意だ。子供のころ、父親と弟と一緒によくキャッチボールをしていたから。
手をパタパタと動かしてみた。少しごわごわする。

「よし、キャッチボールしよ」
「うん!楽しそう!する!」

久しぶりの大好きなキャッチボール。わくわくが止まらない。

グローブにボールをくっつけてキャッチするから、グローブのように挟んだりするわけではなかった。
当たり前だけど、キャッチする場所があるわけではなく、掌に当てるという感じだった。
それでも久しぶりの運動は楽しい。

二人できゃーきゃーワーワー言いながらキャッチボールをする。
たまに、手袋にくっつきすぎて離れなくなって、必死にもぎ取ることがあった。それがまた楽しい。

「倖さん、うまいじゃん」
「だから、体育8って言ったでしょ?」
「それ微妙過ぎだって」

体を動かすと暖かくなってくる。
「ちょっとタイムー」
汗をかく前にダウンコートを脱ごうと、ファスナーを下ろした。


「あ!」

その時、綺麗な夕焼けが目に入った。
空はさっき見たオレンジの夕焼けとは違う色をしていた。
ピンク色の空。その上空にある水色とのコントラストがきれいで幻想的だった。

次第にそれは薄紫へとなっていき、周りは薄暗くなってきた。

「ちょっと歩こう」
「うん」
手を繋いだまま自販機に連れていかれ、温かい飲み物を買てもらった。
リクエストしたホットカフェオレを手渡された。
「ありがとう」
「どういたしまして」

両手でカフェオレを持って、前野君についていくように隣に並び、再び広場を歩く。

「暗くなってきたから気を付けてね」
「うん」
右手を出され、その手に自分の手を添える。
ゆっくりと歩く。
右手で胸に持っているカフェオレが温かい。
左手は手を繋いだまま前野君のポケットに入れられている。

「さっきさ」
前野君が静かに話し始めた。

「蕎麦屋で『前野君も律儀だ』って言ってたけど、あれってどういう意味だったの?」

お蕎麦屋さんでのことを考える。
彼女がいるいないの話のことだろう。
ああ、何気ない言葉だったのだけれど、嫌な気分にさせてしまったのだと思う。

「ああ、ごめん。律儀って言われるの嫌だった?」
「ううん。『律儀』より、『前野君も』って言ったから。『も』って、誰と一緒だったのかな?って思った」


「ああ・・・」
そういう意味かと納得する。

「別れた彼氏」
怒るかなとも思ったが、正直に伝えた。

「律儀な人だったんだ」
「好きな人ができたから別れてくれって。その相手と付き合ってるわけでもないのに、言ってきた」
「他の人と付き合うからって別れてくれって言われるほうがいやじゃない?」
「それでもよかった」


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