優しい微笑みに騙されて
#10
「第6ゲームはお姫様を救出するゲーム☆」
意味がわからないことを高らかに発言するのはトールさんだった。ユーリさんはただの変わりだったのだろう。
「ルールは簡単☆今から君たちのグループの中から1人ずつお姫様を選ぶね☆お姫様以外の人達は、失敗したら死のアスレチックをやりながらゴールを目指そう☆お姫様はゴールの所にいるから☆ただゴールは、残り3チームにならないと開かない…☆他のチームを殺してゴールを目指せ」
トールさんは相変わらずのテンションで説明を続ける。
「お姫様は、グループみんなが死んだら一緒にさようなら☆助けに行こうとしない、アスレチックに参加しないグループは強制的に失格だからそのつもりでね☆」
トールさんの言葉が終わった瞬間、目の前が真っ暗になる。明るくなった時には、椅子に拘束されていた。周りを見渡すと、何人もが同じ状況だった。
「嘘でしょ…⁉︎アレをクリアしろって言うの⁉︎」
誰かの声で改めて証明を見ると、そこには大きなモニターがあった。アスレチック全体を写している。落ちたらマグマの場所や、下が見えないくらいの穴がある場所、普通に難しいアスレチック。椅子に設置されている小さなモニターでは、グループの人がアップで写されている。
「なぁ、アイツ誰だよ…」
みんなの視線の先にいるのは仮面をつけていないトールさん。みんなから見たら、誰かわからないイケメンだ。
「それじゃあ、第6ゲームスタート☆」
トールさんがそう発すると同時に、周りが騒めく。
「まさかこの人が仮面の…」
「これ、私達がお姫様なの…?」
トールさんはにっこりと笑って口を開く。
「改めて。お姫様に選ばれた皆さんはじめまして☆まぁ皆さん良かったですねぇ?アレをやる側は、銃殺されたり、焼かれたり、落下死したり色々大変だけど、皆さんはすぐに死ねるんですから☆あ、言ってる側から、まずは1グループ脱落ですね☆」
「ウ゛ッ」
苦しそうな声と同時に、顔も知らない誰かが死ぬ。
「ま、そういうことだね☆」
トールさんはそう言うと何の躊躇いもなく私のもとに歩いてくる。優しい手つきで私の髪を取ると今まで見た中で1優しそうな笑顔を浮かべた。その様子を見て、また周りがざわめく。
「ユカ……あの薬、結構苦しかっただろう?まぁ、思い出せたみたいで良かった」
初めてトールさんが私のことを呼び捨てにした気がする。少し、不思議な気持ちだった。ふと、手元のモニターを見た時に、目に入った映像を見て固まる。
「るなっ………」

るなに発砲された鉛が当たり、下に落ちた

トールさんはその様子を、感情の読み取れない目で見つめていた。
「おっと……」
突然身近で鳴った発砲音に、トールさんは瞬時に避ける。みんなが音がした方を向く。そこには、拘束されているにも関わらず銃を握っている男子がいた。彼は、私も知っている。逆に、学校で知らない人はいないだろう。私達の学校の生徒会長の豊田先輩だった。
「わぁ…危ないだろう?急に発砲しないでくれよ」
トールさんは、ゲーム中だとは思えないくらいテンションの低い声でそう言う。それが逆に不気味だった。
「危ない…?俺たちをこんな危険なゲームに晒しといてよく言えるな。お前を殺せば、俺たちは助かる」
豊田先輩はそう言うと、殺意のこもった目でトールさんを見る。
「さっき、堀崎さんに言った薬とはなんだ?生徒に何を飲ませた?なぜそんなに親しげなんだ?我が校の生徒に何をしたいんだ?」
それが、私を心配している言葉だとは、すぐ分かった。豊田先輩は、私によくおすすめの本を紹介してくれたりする良い先輩だった。いつも生徒思いで、まさに完璧な生徒会長と言われていたほどだ。
「ユカに飲ませた薬…?さぁ?なんだろうね…?」
トールさんの挑発するような言い方に、豊田先輩は銃を握っている手に力を込めた。そして、もう一度トールさんに向けて発砲する。トールさんはその鉛を、懐から出した銃を発砲して相殺させた。あまりの早技に、みんなが絶句する。
「ウザいね、君。豊田(とよた)瑛人(えいと)くんだっけ?今ここで殺してあげても良いんだよ?」
そう言ったトールさんの目は、本気だった。今までトールさんを、不気味だと思ったことはあっても、怖いと思ったことはなかった。けど、今は、トールさんがとても怖く見える。
「最後に言い残すことはあるかな?」
トールさんのその言葉には、とてつもなく重い圧を感じた。このままだと本気で先輩を殺す気がする。

「トールさん…やめてください」

気づいたら、そう口にしていた。豊田先輩も、トールさんも、呆然と私を見ている。トールさんは探るように私を見てから微笑んだ。
「そんな悲しそうな顔しないでよ」
トールさんはそう言うとしゃがみ込み私の耳元で口を開く。
「とてもそそられる」
とろけるように甘い声に、少しゾッとした。トールさんは立ち上げると少し楽しそうに笑って言う。
「レン様とユーリだったら、絶対なんかやってたね」
悪戯成功みたいな無邪気な顔でそう言って笑うトールさんに、さっきまでのあの怖さは存在しなかった。
「豊田くん、運が良かったね?たまたま君のグループ強いみたいだし、最終ゲームまで残れそうだよ?」
トールさんは不気味に笑ってそう話す。気づけば、この部屋で生き残ってるのは私を含めて3人だけだった。私と、豊田先輩と、名前を知らない先輩。開いた扉から入ってきたのは3人。どのグループも、1人しかゴールまで辿り着けなかったらしい。そして、仮面を付けてないトールさんを見て、全員が目を見開く。

「さぁ、じゃあそろそろ、最終ゲームに移ろっか」
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