俺様御曹司の契約妻になったら溺愛過剰で身ごもりました
「それで、相手はどんな方なの?」

 あの人――の影を断ち切るように、日菜子は思考を切り替えた。見合い相手にはなんの興味もないが、失礼のないよう最低限の情報は知っておくべきだろう。

 ところが、英一はかたくなに相手の情報を明かそうとしない。結局、日菜子のほうが根負けして待ち合わせの場所と時間を確認しただけで縁談の話を終えた。

(まぁ、いいわ。どうせ断る相手なんだから、あれこれ知る必要もない)

 その後は蓉子の作ってくれた夕食をごちそうになって、夜八時前にはマンションに戻った。

(あの人のこと、久しぶりに思い出したな)

 強がりでもなんでもなく、本当に引きずっているわけではないと思う。その証拠に、思い浮かべた彼の顔はもう曖昧になっていた。彼と最後に会ったのは三年前、大学四年の秋のことだ。

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