俺様御曹司の契約妻になったら溺愛過剰で身ごもりました
「先に休んでいていいぞ。遅くまで待っててくれてありがとな」
「……は、はい」

 こういうことがあるたびに、日菜子は自分の立場を再確認する。彼のスキンシップは愛し合う男女のそれとはやはり違う。

(優しくて甘いけど、私は女性として愛されているわけじゃない)

「俺はシャワー浴びてくるから」

 にっこりと笑った彼がスーツのジャケットを脱ぐ。その瞬間、ふわりと甘い香りが流れてきた。

 日菜子の顔が凍りついたことに、おそらく彼は気づかなかったのだろう。そのままリビングを出ていった。

(大人っぽくてセクシーな……女性ものの香水? 誰の……?)

 日菜子は香水をつけないし、善もおそらくそうだ。これまで彼から人工的な香りが漂ってきたことは一度もなかったから。
 
 心にさざ波が立つ。不安とも焦りともつかない感情が迫ってきて、息苦しさを覚える。
 たとえば会議の場に女性がいたとか、恋人以外の可能性はいくらだってある。頭ではそう理解しているのに、気持ちがついていかない。寂しくて、苦しくて……どうにもならない。

(私、善さんが好きなんだ)

 ほかの女性の存在をきっかけに恋心を自覚するとは、なんとも皮肉なものだ。
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