俺様御曹司の契約妻になったら溺愛過剰で身ごもりました
 だが、自分自身も詰めの甘いしょうもない男だと気がついたのは、泥酔した彼女をタクシーで送り届けたあとのことだった。

 名前も連絡先も聞くのを忘れていた。学生時代の友人の話で、柘植の婚約者が氷堂地所のご令嬢であることはすぐに判明したが……所詮はバーで一度会っただけの関係だ。なんとなく気になりつつも、なにもできないままに月日が過ぎていった。

 だからこそ、中途採用者の履歴書を部下から見せられたときは思わず声をあげてしまうほどに驚いた。
『運命かもしれない』などと俗っぽいことを考えたのは、日菜子には内緒だ。

 契約結婚の期間中に彼女の心を手に入れたいと思った。絶対に振り向かせる。そのために恥もない猛アプローチを繰り広げ、彼女を守る氷の壁もようやく溶けはじめてきたようの思えたのに……。

 
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