俺様御曹司の契約妻になったら溺愛過剰で身ごもりました
 オフィス内にあるカフェテリア。その自販機の前で、善は缶コーヒーを片手にひとりごちた。

「日菜子の様子が変だな」

 思い当たることがないわけではない。先週末にすっぽかしてしまった約束。

(やっぱりあれを怒っているのか?)

 電話をくれたときの彼女の様子には思いつめたような雰囲気があり、善としても気になってはいたのだ。だが、会合は想像以上に長引いてしまって日菜子との約束はキャンセルせざるを得なかった。

(あのとき、ホテルの外に日菜子に似た子がいたんだよな。もしかしたら待ち合わせより早めに来て俺を待っててくれたのかも。それで余計に怒って……)

 筋は通っているのだが、あまりしっくりこない。日菜子は仕事の都合での予定変更を怒るような女性ではないからだ。善は多忙なので、これまでにも彼女に予定変更をお願いすることは何度かあった。そんなときは、こちらが寂しく思うほどあっさりと納得してくれていたのに……。

(むしろ、もっと怒ったり拗ねたりしてほしいと思ってた)

 だから今回も、日菜子がただ怒っているのなら善はうれしい。けれど、彼女の態度はそういう感じではない。

 もっと……根本的に善を拒絶しているように思えるのだ。気になるなら聞けばいい。それだけのことが……今の善には難しい。前髪をかきあげ、大きなため息をつく。

(情けない。本気の拒絶を聞くのが怖くて聞けないなんて――)

「はいはい。こんなところで無駄に色気を振りまかないでよね」

 日菜子より高く甘めの声。

「南か。お前も休憩?」
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