合意的不倫関係のススメ
そんなことがあった約半年後、蒼が就職してすぐに私達は籍を入れた。結婚式はせず、フォトスタジオで写真撮影と、友人達を招いたカジュアルな結婚パーティー。口煩い親戚もいない私達は、全て自分達の思い通りに決めることが出来た。

結婚すれば蒼は私のものになる、なんて浅はかかもしれない。紙切れ一枚で結ばれた契約は、同じく紙切れ一枚で簡単に破棄できるのだから。

(でも私は、勝った)

あの時の女にも、自分の母親にも。

あの赤い靴の女がどうかは知らないが、少なくとも母親がなし得なかったことが、私にはできた。誰からも好かれる蒼の、妻という立場を手に入れたのだ。

浮気の件があってから、蒼は殊更私に優しくなった。就職と殆ど同時に結婚したことを悪く言う人間も、中にはいたかもしれない。

けれど彼は愚痴を一切溢すことなく、私と結婚出来たことは奇跡だと、何度も何度もそう言った。

「茜、好きだ、愛してる、可愛い…っ」
「あぁ…蒼…っ」

他の女を抱いた彼に抱かれるなんてどれだけ気持ち悪いだろうと思っていたけれど、案外なんてことはなかった。

所詮はこれも、日常生活のほんの些細な一部。例えば食あたりかなにかで、もう何も口にしたくないと思っても、数日もすれば当たり前のように食事をしている。

まぁ、私にとって性行為というものはなくても生きていける程度の価値しかないけれど、彼にとってはそうではないらしい。

蒼の綺麗な指がこちらに伸びてくるたびに、心の底ではこう思う。

(これは、贖罪の為のセックスなの?)

全身にキスをして、とろとろになるまで愛撫を施して、達するまで懸命に腰を振る。

(大変ね、お気の毒さま)

そんな風に、思ってしまうのだ。

けれど求められればもちろん拒否はしないし、したくない。だって一度でも拒んでしまえば、もう次はないかもしれないから。

「…ちょっと太ったな。気をつけなきゃ」

ベッドの中で裸で抱き合い、彼の腕枕で眠る。ふと目を覚ました私は、自身の腹を指で摘んだ。
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