合意的不倫関係のススメ
結局あれはどういう意味だったのかと、私は深く追及しなかった。二條さんも曖昧な表情で誤魔化して、その後は他愛ない会話しかしなかった。
(今日はちょうだいって言われなかったな)
去っていく彼に視線を向けることもしないまま、ぼんやりとそんなことを思った。
ーー彼、明らかに茜に気があった
いつだったか、蒼に言われたことがある。確か花井さんとその友人含め、五人で食事に行ったその晩だっただろうか。
あの時は売り言葉に買い言葉のようなものだとしか思わなかったし、蒼が本当にヤキモチを妬くとも考えていなかった。
(ずっと蒼のことで必死で、他の人なんて見たことなかった)
蒼のことならよく分かる。けれど他の男性の気持ちは、汲むことが出来ない。深い付き合いをしようという気が更々ないから。
二條さんはただ私に興味本位で構っているだけだと、今でも思っている。
けれどもしも、《《そう》》であったなら。
(もう二人には、ならない方がいいかな)
曖昧も牽制も、何も必要ない。ただ、距離を取るだけだ。
「あの、三笹さんちょっといいですか?」
そしてこのタイミングで、私は後輩から呼び出しを受けた。それは花井さんの友人で、外商部の事務をしている女子社員。
あの五人での食事会の席にも、私が参加した外商部部長との飲み会の席にもいた、彼女だ。
バックヤードの更に人気のない非常階段にて、彼女の表情を一目見れば何の話なのかはすぐに分かった。
「最近よく二條さんと二人でいるのがどうしても気になって…すみません、年上の方を呼び出すような真似をして」
花井さんと違い、この子はまだ常識があるようだ。好意的な雰囲気ではないが、まだ遠慮が見てとれる。
「五人で食事をした日も三笹さんのことを庇ってたし、社食でも二人で楽しそうに話しているし、それに最近私や他の女子社員にはどことなく冷たいような気がして、もしかしたらそれは三笹さんと関係があるんじゃないかと思ったんです」
例え男女といえど私は既婚者だ。同期という間柄でもあるし、社食で話していたからなんだというのだろう。
(…ちょっと面倒だな)
学生時代、蒼を好きだった女子からも多少こんな風に呼び出されていたから、こういうことには慣れている。
「私には夫がいるし、二條さんも既婚者に手を出すような人ではないと思う。大した会話もしていないけど、気に触るようなら今後は気をつける」
「あの…失礼を承知で伺いますが、旦那さんとは順調ですか?」
「…心配してもらうようなことはないよ」
やはり彼女は、まだ分別のつく方だった。私の回答に納得したのかどうかは知らないけれど、すぐに解放された。
「……」
そして誰もいなくなった非常階段で一人、私は深い溜息を吐いたのだった。
(今日はちょうだいって言われなかったな)
去っていく彼に視線を向けることもしないまま、ぼんやりとそんなことを思った。
ーー彼、明らかに茜に気があった
いつだったか、蒼に言われたことがある。確か花井さんとその友人含め、五人で食事に行ったその晩だっただろうか。
あの時は売り言葉に買い言葉のようなものだとしか思わなかったし、蒼が本当にヤキモチを妬くとも考えていなかった。
(ずっと蒼のことで必死で、他の人なんて見たことなかった)
蒼のことならよく分かる。けれど他の男性の気持ちは、汲むことが出来ない。深い付き合いをしようという気が更々ないから。
二條さんはただ私に興味本位で構っているだけだと、今でも思っている。
けれどもしも、《《そう》》であったなら。
(もう二人には、ならない方がいいかな)
曖昧も牽制も、何も必要ない。ただ、距離を取るだけだ。
「あの、三笹さんちょっといいですか?」
そしてこのタイミングで、私は後輩から呼び出しを受けた。それは花井さんの友人で、外商部の事務をしている女子社員。
あの五人での食事会の席にも、私が参加した外商部部長との飲み会の席にもいた、彼女だ。
バックヤードの更に人気のない非常階段にて、彼女の表情を一目見れば何の話なのかはすぐに分かった。
「最近よく二條さんと二人でいるのがどうしても気になって…すみません、年上の方を呼び出すような真似をして」
花井さんと違い、この子はまだ常識があるようだ。好意的な雰囲気ではないが、まだ遠慮が見てとれる。
「五人で食事をした日も三笹さんのことを庇ってたし、社食でも二人で楽しそうに話しているし、それに最近私や他の女子社員にはどことなく冷たいような気がして、もしかしたらそれは三笹さんと関係があるんじゃないかと思ったんです」
例え男女といえど私は既婚者だ。同期という間柄でもあるし、社食で話していたからなんだというのだろう。
(…ちょっと面倒だな)
学生時代、蒼を好きだった女子からも多少こんな風に呼び出されていたから、こういうことには慣れている。
「私には夫がいるし、二條さんも既婚者に手を出すような人ではないと思う。大した会話もしていないけど、気に触るようなら今後は気をつける」
「あの…失礼を承知で伺いますが、旦那さんとは順調ですか?」
「…心配してもらうようなことはないよ」
やはり彼女は、まだ分別のつく方だった。私の回答に納得したのかどうかは知らないけれど、すぐに解放された。
「……」
そして誰もいなくなった非常階段で一人、私は深い溜息を吐いたのだった。