戻り駅
☆☆☆

 過去へ行ける戻り駅は必要な人の前に現れる。それなら私は今その駅を必要としている。


きっと日本中探したって、今の私ほど戻り駅にたどり着きたいと思っている人はいないはず。


 駅に近づくにつれていろんな制服姿の学生が増えてくる。


 ついさっきなにが起こったのか知らない学生たちは明るい笑い声を響かせて、友人たちとジャレあいながら駅までの道のりを歩いていく。


 私はそんな学生たちの隙間を塗って、時に肩をぶつけながら賢明に走った。


 やがて、学校からの最寄駅が見えてくる。小さな駅舎の前に昔走っていた汽車の一部が展示され、道を挟んだところに小さな派出所が見える。


 そんな見慣れた風景を走りすぎていく途中、なにかに足がひっかかった。止まることができずにそのまま勢いよく倒れこむ。


 周りの学生たちが巻き込まれないように私から逃げるのが見えた。


「痛っ……」


 顔をしかめて足元を確認すると、段差があることがわかった。いつもなら気にしていなくてもちゃんと乗り越えられるような段差だ。


 派手に転んだせいでひざをすりむいて血が滲んでいた。熱を帯びた痛みで顔をしかめたとき、不意に血まみれで倒れている誠の姿を思い出した。


 たったこれだけの擦り傷で痛いのだから、誠はどれだけ痛い思いをしたんだろう。


 後ろから激突され、更に体の上に乗り上げてきた白い車。


 頭の中によみがえってきた記憶に、ようやく涙がこみ上げてきた。


 視界が滲んだかと思うと、ボトボトと大粒の涙がこぼれ落ちていく。


 乾いた地面があっという間に濃い灰色に変わっていく。こんなところで泣いたら変に思われるとわかっていても、感情が押し寄せてきて止まらない。我慢していても嗚咽が喉の奥からほとばしった。


「うっ……あぁぁ!!」
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